『冬のソナタ』とぺ・ヨンジュンが作った"韓流ブーム"は、東方神起を経て、BIGBANGや少女時代に引き継がれ、ブームを超えた大きなうねりとなって日本中を席巻している。ただイ・ビョンホンの女性騒動や、東方神起の3人(ジュンス、ジェジュン、ユチョン)の活動休止など、韓流スター周辺には騒動も多く、多くの場合、日本人は蚊帳の外に置かれ、流れてくる情報に戸惑うばかりだ。
8月に発売された『日本人の知らない韓流スターの真実』(文藝春秋)は、韓国で市場占有率ナンバーワンのタブロイド週刊紙『日曜新聞』のシン・ミンソプ記者と、元「週刊文春」の記者で現在ソウル在住の菅野朋子氏が、韓国芸能の実態に迫る意欲作だ。今回は菅野氏に、スター養成システムや、芸能界とマスコミの関係など、韓国芸能の外堀について伺った。
――先日、東方神起のジュンス、ジェジュン、ユチョンの日本での活動休止が発表されましたね。
菅野 「次はこう来たか!」と思って、ビックリしました。めまぐるしい展開です......。新しく東方神起のマネジメントを引き受けた、本ではA氏としましたが、そのA氏が過去、韓流スターを日本に売り出した際に築いた自身の人脈を使おうとすれば、エイベックスとは早晩トラブルが起きるだろうと言われていたのですが、それが現実となった格好ですね。それに、東方神起の3人も、日本では人気・収益ともに安定したので、一度韓国に戻って、本国での足場も固めたいという思惑もあるのではないでしょうか。やはり、日本に拠点を置くと、韓国での人気はがくんと落ちてしまいます。韓国でファンにそっぽを向かれると、今後の活動に大きく影響しますから......。
――今回の書籍では、その東方神起の分裂の一因として、「インキュベーティングシステム」(練習生として本格的なトレーニングなどの投資を受ける分、長期的な専属契約を結ばされる)にも触れています。日本におけるオーディションとの決定的な違いは?
菅野 選抜方法は、日本も韓国も変わらないようですが、その後のトレーニング内容と、決定的に違うのは事務所(芸能プロダクション)がすべての経費を払う点でしょう。事務所によっても違いますが、ほぼ毎日、学校が終わった後の夕方から夜にかけてと週末に歌、踊り、演技などのトレーニングを受け、正式な練習生になると、海外進出をにらんで語学研修なども加わります。交通費まで払う事務所もあるそうです。本には詳しく記しましたが、そうやって育てあげた後、スターとなった彼らから資金を回収し、次世代を育てるというサイクルになっており、東方神起はそうした契約内容に不満を持ったようです。
――このシステムには"功罪"どちらもありますが、菅野さんから見た"功"の部分は?
菅野 海外市場にも通じる、本格的なアーティストを育成したことではないでしょうか。確かに契約や待遇には問題がありますが、実力のあるスターを作り上げると目的にはうまく機能しているシステムでしょう。
――確かに、韓国芸能人のパフォーマンスは高く評価されます。一方、日本で人気のアイドルは歌唱力やダンスが"完璧"ではなくても、キャラクターとして愛される傾向にあります。
菅野 先日、韓国の全国紙「朝鮮日報」も、日本と韓国のアイドルを比べていましたが、日本人がアイドルにかわいらしさや親近感を強く求めるのに対し、韓国は「スター」を求めている点、また、海外市場で通じるスターを育てあげるという野望を持っている点が違うと感じます。
以前、BoAを育てたSMエンタテインメントのイ・スマン現会長に話を伺った際、「日本は大衆文化の先進国であることは明らかで、(日本進出は)水の流れに逆らうわけで"モーター"(実力)が必要だった」と語っていましたが、海外に進出するためには実力は必須だったわけです。
ただ、韓国本国では、そうやって"スター"として認められた後はやはりキャラクターありきで、トークショーなどのバラエティーからそのキャラクターが愛されて人気が出るアイドルもいますよ。
――お話を伺っていると、韓国芸能界における海外進出というのが、本当に戦略的だと感じます。
菅野 韓国の音楽市場は、とても小さいんです。違法ダウンロードが横行しているのでCDは売れませんし、多くの収益が見込める市場ではありません。そのため、韓国のアーティストたちは外に出ざるを得ない状況でもあります。イ・スマン氏は、BoAのコンセプトを「ハリウッドで戦えるアーティスト」とも言っていて、BoA は実際、米国にも進出しましたが、韓流K-POPのアーティストたちは世界第二の市場と言われる日本に進出した後、米国進出をも睨んでいるといわれています。
――日本進出は、米国進出への足がかり?
菅野 そうですね。韓流はもはや、国がかりの「国益」をもたらすプロジェクトになっています。韓国の文化体育観光部(省)傘下に映像などのコンテンツを研究するシンクタンクがありますが、そこは今年、日本事務所を作りました。日本市場をリサーチするのが主な目的ではなく、「韓流は日本ではもう十分に人気を集めて定着したので、今後はこれを維持するためのマーケティングを続け、さらにそこから次のステップである米国進出の戦略を研究する」と言われて、驚きました。
――今、日本には少女時代、KARAなどK-POP アイドルが進出しています。ただ、細かく見ればこそ個性が分かりますが、K-POPアイドルという括りやセクシーさを押し出したイメージは似通っているように思います。あえて、このタイミングで一斉に売り出したのには、何か思惑があるのでしょうか。
菅野 売り出した時期はそれぞれ事務所の戦略があるかと思いますが、少女時代にしてもKARAにしても、韓国でトップアイドルとなったピークからは人気が停滞しているタイミングでの日本デビューという印象が強いです。日本での韓流K-POPガールズはセクシー路線と見られがちですが、少女時代は韓国では「美脚」を売りにしていたわけではないんですね。「少女時代」というくらいですから、彼女たちに求められていたのは、健康的な少女のイメージなんです。ただ、ライバルグループであるKARAや追随してきたアイドルグループがセクシーさを出してきたことによって、少女時代もセクシー路線に行きかけたのですが......、彼女たちに求めるのはやはり健康的なものだったので、いきなりセクシー路線を見せられても引いてしまって、曲はあまり売れなかったですね。
――日本進出に際し、はじめからセクシー路線で売り出すという方針に変えてきたということでしょうか。
菅野 変えてきたというよりは売り出すための"コンセプト"が必要だったのだと思います。ただ、少女時代も韓国では音楽番組に出つつ、個々のメンバーがバラエティーやドラマで活躍し、グループ自体の人気も高めるという手法をとっていました。でも、日本ですと、本数的にも人気の音楽番組が充実しているわけでもないし、バラエティーやドラマの出演もまだ言葉の壁があるのでそれほど見込めないですよね。なので、短期決戦で引き上げるつもりかもしれません。
(後半に続く)
『日本人の知らない韓流スターの真実』
人気絶頂で分裂し、世界中の話題をさらった「東方神起」分裂の真相から、BIGBANG、少女時代、KARAなどK-POPアーティストたちはいかにして鍛え上げられたのか? ヨン様、ビョン様たちの結婚事情、はたまた、スターの美容整形カミングアウト時代の到来、そして芸能記者たちはいかにしてスクープをものにするのか......。韓国では「張り込み3大王」のひとりとして名を馳せる、20万部発行のタブロイド紙の敏腕記者と、ソウル在住日本人ジャーナリストが、韓国芸能界の「真実」に迫った。
※画像は『日本人の知らない韓流スターの真実』(文藝春秋)
Via 楽天woman
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